Claris FileMaker ソリューションに AI を組み込む理由

2月に米国 Austin で開催された Claris Engage 2024。
そのセッション動画が、YouTube の Claris 公式チャンネルで一般公開されました。

https://www.youtube.com/@Claris

今視聴できるもののうち、Claris の公式セッションで生成 AI に関連するものが2つありました。

一つは、Claris の Product Manager である Ronnie Rios さんによるもので、現行のバージョン(Claris FileMaker 2023)でここまでのことができるという実例を、実際に動かした様子を示しながら紹介するデモです。

Delivering AI driven solutions with Claris FileMaker: a practical overview

もう一つは、Wade Ju さんによる今後登場する(かもしれない)新しいバージョンを使ったデモ。ChatBot のようなインターフェースで、データベースの内容について自然言語で問合せると、それに答えてくれる様子などが紹介されました。

AI under the hood session Integrating Large Language Models

生成 AI の事例紹介の新動画も

これらの動画と同時に、上記の Ronnie さんのセッションをさらに掘り下げる位置づけで、もう一つ、生成 AI 関連の動画が公開されていました。
ここでは、Engage で AI 関連の事例紹介を行った Claris パートナーの発表者3名をオンラインのゲストとして招いて、発表したアプリケーションの概要の紹介とディスカッションが行われています。

Exploring the Potential: AI Integration in FileMaker Solutions

ここで紹介されている4つの事例は、すべて現行バージョンの Claris FileMaker で実装したものです。特に印象に残ったのが以下の2つでした。

概算見積の自動生成

Cris Ippolite – iSolutions

Exploring the Potential: AI Integration in FileMaker Solutions

自然文による、顧客からの要求の文章を入力すると、それを社内で決められた業務工程に自動的に分解し、さらに今までの実績に基づいて工程ごとの概算見積を算出します。

たとえば、顧客からの要求は以下のような文章です。

この例は、お菓子のパッケージのデザイン・印刷の依頼のようです。
これを社内コードと照合させて、なるべく正確な見積資料を自動的に生成する、というタスクです。

見積明細レコードの列構成は、以下のとおりです。

・業務コード
・項目名
・種別(作業/材料/配送/その他)
・単位
・数量
・原価
・価格小計

これを実現するために、裏では地道な準備があったようです。

・データ辞書(業務コードの定義や対応表)を作成
・業務の専門家の知見を蓄積

・API 経由で生成 AI に投げるプロンプトをカスタマイズして cURL オプションに設定

データ辞書は、プロンプトに埋め込む用と、カスタム関数用を準備します。

これによって、生成 AI の API から解析結果が変換・フォーマットされて返されます。

さらに Claris FileMaker には、過去の成約実績の表形式のデータから機械学習によって作成された線形回帰モデルを、あらかじめ組み込んでおきます。
生成 AI によって作成された見積明細の各レコードのデータを、この学習モデルに投げることで、実績に基づいたなるべく正確な見積値を求めています。

名刺リーダー

Joris Aarts – ClickWorks

Exploring the Potential: AI Integration in FileMaker Solutions

これはよくある名刺リーダーと同じで、iPhone のカメラで名刺を撮影すると、名刺の内容を理解して、新規作成したレコードのふさわしいフィールドに自動的に文字列を入力してくれます。

まず、撮影した画像からGetLiveText関数で、文字列を抽出します。
API 経由で ChatGPT 3.5 を利用して、文字列を項目ごとに分類し、JSON 形式で取得します。
ChatGPT へのプロンプトは以下のとおりです。
どのような情報がほしいか、国情報や Web サイトの URL の記載がない場合はどうするか、JSON の値の形式をどう統一するか、などの指示がされています。

GetLiveText 関数で取得された文字列と、ChatGPT が解釈して返された JSON は以下のようになります。

その後、スクリプトでそれぞれ対応するフィールドに文字列を設定して完了です。

なお、このデモファイルは ClickWorks のホームページからダウンロードできます。ユーザ情報の登録は不要で、設計情報も開示されていますので、ご興味のある方はどうぞ。

AI demo: Free Business Card scanner

まとめ

この動画で紹介されていたこれらのサンプルは、単に Web API (「URL から挿入」スクリプトステップ)を使って「ChatGPT と対話できます」というだけではなく、

・生成 AI
・FileMaker のレコード生成機能

と、さらに以前からある

・FileMaker の AI 対応機能(ComputeModel 関数や GetLiveText 関数, etc.)

をスクリプトで接続することで、意味のある有機的な融合の可能性を示すすばらしい実例になっています。

また、生成 AI 活用のポイントはプロンプトをどう書くかの発想の工夫だということもよくわかります。
(それを隠しもせずに公開してくれるパートナー開発者の皆様には頭が下がります)

Claris FileMaker と AI を統合するアイデアは、それこそ現場の数だけ可能性があるでしょう。Claris FileMaker だからこそ実現できる AI ソリューションを、これから寿商会と一緒に考えていきませんか?