Claris FileMaker 2024 と AI で可能になる世界を紹介するライブ配信の第 2 回が開催されました。前回の 1 回目に続き、FileMaker 2024 の登場で実現可能になった具体的な事例を、Claris パートナーの開発者たちが紹介しました。
ライブ配信のアーカイブ: https://www.youtube.com/watch?v=w3N8H0pqnac
参加パネル
今回のライブ配信には、以下の開発者がパネルに参加しました。
・Ronnie Rios (Claris)
・Nicolas Franco (bitwOk)
・Cristos Lianides-Chin (codence)
・Vincenzo Menanno (beezwax)
FileMaker 開発者は AI 機能の導入をどうとらえているか
最初に、FileMaker 開発者が AI 関連の新機能についてどう考えているかのアンケートが行われました。アンケートからは以下のような結果が得られました。
- 半数の人が業務システムへの AI 機能の導入に興味を持っている
- 主な利用目的
→ データ分析機能の強化
→ 自動化
→ 意思決定プロセスの改善 - 不安に思うこと
→ データ保全
→ コスト
→ 使いこなすための知識の不足
→ 倫理的問題
AI機能を導入することによって何が可能になるか
beezwax の Vince さん、bitwOk の Nicolas さん、codence の Cristos さんが紹介した AI 機能の導入によって可能になった事例を以下にまとめました。
Inspector Pro の新バージョン
beezwax の Vince さんから、beezwax が提供している Inspector Pro の新バージョンが紹介されました。Inspector Pro は、FileMaker カスタムアップの構造解析ツールです。FileMaker Pro から出力した XML ファイルを専用のカスタムアップに読み込むことで、簡単にカスタムアップの構造を見ることができます。
以前は、メニューの [ツール]>[データベースデザインレポート…] からの出力ファイルを使っていましたが、現在は [ツール]>[名前をつけて XML として保存…] を使用しているとのことです。
例えば、以下のスクリプト一覧の画面では、スクリプトの概要をまとめた文章がポップオーバーに表示されています。
これはスクリプトの全体を生成 AI に投げて、概要を生成させています。
同時に埋め込みデータも裏で生成しています。計算式についても、同じ処理が行われます。
新しい検索機能では、従来のキーワード検索ではなく、セマンティック検索を行ない、スクリプトや計算式が何を行っているかについて検索できるようになります。例えば「起動プロセスに関するもの」というような指定で検索が行えるようになるそうです。
このセマンティック検索を利用した機能は、当初思っていたよりも簡単に開発できそうだということで、急遽導入の判断をしたということでした。ここからも、セマンティック検索関連の一連の新機能が、既存のソリューションに簡単に組み込むことができるものであることがわかります。
また、上記の例では OpenAI のモデルを使用していますが、データ保全を重要視する場合には、FileMaker Server 2024 に同梱された Python スクリプトを使用することで、ローカル環境で完結するシステムも構築可能であることが紹介されました。
独自モデルを作ろう
FileMaker のセマンティック検索では、標準的には OpenAI API を利用するなど、汎用的なモデルを利用することが前提になっています。
bitwOk の Nicolas さんからは、独自モデルを作ることについて、その意味と利点などが紹介されました。
独自モデルを持つ動機としては、今までにも何度か話題が出ましたが、データ保全やコストを重視する場合の選択肢としての位置付けがまずあります。
独自モデルであれば、自分が蓄積したデータを学習させて、より正確な知識を持たせることができます。モデルを小さく作って、ノートパソコンで実行させるということも可能です。
モデルを入手できるサイトとして Hugging Face が紹介されました。ベースとなるモデルをダウンロードして、そのモデルの一番外側に、自分のデータを学習させた層を持つことで、ファインチューニングします。デモで使われた、自然言語で画像を検索できるシステムのベースとして clip-vit-base-patch16 が紹介されました。
Hugging Face の clip-vit-base-patch16: https://huggingface.co/openai/clip-vit-base-patch16
モデルを自分で作る、と聞くととても難しそうな印象を抱きますが、仕組みをすべて理解する必要はなく、パラメータを理解すれば独自モデルの作成は可能とのことでした。少し Python の知識は要りますが、トライしてみる価値はありそうです。
エッジコンピューティング
codence の Cristos さんからは、エッジコンピューティングという考え方が紹介されました。上の Nicolas さんの話とも通じますが、クラウドと通信することなく、端末内で処理が完結しているシステムを指します。
FileMaker Version 19 で導入された、機械学習モデルのサポートは、この方向の機能と言うことができます。CoreML に対応したモデルを iOS 端末で実行できるということで、いろいろな用途に応用できます。
デモでは、モデルをノーコードで学習・生成できるツールとして Liner.ai が紹介されました。MacOS で利用できる Create ML と同じような使い勝手で、こちらは Linux, Windows にも対応しています。
利用者のフィードバックが重要
途中の視聴者からの質問で、今後 Copilot のような開発支援の AI アシスタント機能は FileMaker にも導入されるか、というものがありました。Claris の Ronnie さんによると、今回導入されたセマンティック検索に続き、開発者のニーズに合った機能を提供するために、現在複数の機能を評価中であり、AI アシスタント機能もその一つであるということでした。重要なのは、利用者が求めているものは何か、を正しく把握してそれを製品に反映することであり、そのために Claris 社に対して声を上げて、どんどんフィードバックをしてほしいということです。(日本語では、日本の Claris Community 内のアイデアのためのディスカッション)
最後に
Claris 社としては、FileMaker と AI 機能の融合を、コミュニティの開発者とともにじっくりと進めていこうとしていることが理解できました。多くの FileMaker 開発者の方が AI との融合の可能性に触れて、製品としての FileMaker と、開発者の知識が一緒に進化していくことで、できることの可能性は今後も広がっていくことでしょう。