ビジネスの在り方が大きく変わろうとしている現在、働き方もオンラインにシフトする企業が増えてきました。
これまで対面でのコミュニケーションが当たり前だったのが、急遽リモートでのオンラインコミュニケーションを軸とした働き方が求められるようになり、これまでと同じようにビジネスを進めることに難しさを感じている人も少なくありません。
そこで今回、完全リモートワークを成功させている株式会社寿商会(本社:石川県金沢市)の代表取締役社長 若林孝さんと、名古屋営業所で FileMaker 開発を担当している加藤謙一さんにオンラインでお話を伺いました。
株式会社寿商会は、1947年設立の事務用品・機器の総合卸商社でありながら、2008年には FBA (Claris Partner) に認定された開発会社でもあり、現在日本国内に8社のみが認定されている Claris Platinum パートナーです。
—FileMaker カンファレンス 2019 では FileMaker Go App Leader of the Year を受賞—
約 10 年前から、金沢、名古屋、東京の 3 拠点でオンラインでのお客様対応、商談、開発、サポートを実現させています。
リモートワークの進め方
リモートワークを成功させている寿商会では、各業務にどのようなツールを活用しているのでしょうか。
社内コミュニケーションツールやインフラ環境
- Google Chat:日報報告、メッセージのやりとり
- Google Meet:定期ミーティングなどの打ち合わせ(ビデオ会議)
- Google Form : 出退勤管理、社内申請
- Google Drive:ドキュメント共有、共同編集
- Backlog:プロジェクト管理
- FileMaker : 見積・販売管理、保守サービス管理
- 社外ネットワーク : VPN導入済
お客様とのコミュニケーション
基本的に、打ち合わせは、Google Meet や お客様から指定がある場合には ZoomやWebExなど柔軟に対応しています。それぞれのメンバーがリモートで働いていますので、プロジェクト管理もクラウドベースのサービスを利用しています。現在は Backlog(https://backlog.com/ja/) を活用しプロジェクトの進捗確認の可視化、簡易なメッセージのやりとりを一括管理しています。
さまざまな IT ツールを組み合わせて、社内、そして顧客とのコミュニケーションをリモートで実現していることがわかります。では、実際のところ、社長や社員はリモートワークをどのように捉えているのでしょうか。
—株式会社寿商会 代表取締役社長 若林 孝さん(左)と加藤 謙一さん(右)にオンライン取材しました—
まずは試験運用し、コミュニケーションストレスがかからない方法をみんなで探る。
若林:「リモートワークを始めたのは、FileMaker 事業をスタートさせた頃なので、もう 12 年以上前になります。金沢本社だけでなく東京と名古屋に事務所ができ、多拠点で情報共有をしながらプロジェクトを進めないといけない状況だったことが大きなきっかけでした。また、営業コスト削減につなげたいという想いもありましたね。」
加藤:「私は 2016 年に入社しました。多拠点のメンバーと遠隔で働くのは初めての経験だったのですが、特に不便を感じることはなかったです。それは、リモートワークの基盤はあったことと、オンラインツールの機能が向上しているのも理由のひとつかもしれません。」
若林「現在に至るまで、世の中にあるオンラインコミュニケーションツールは有償・無償を問わず、一通り試したんじゃないか?というくらい、トライアンドエラーを繰り返しています。どのツールが気軽に会話のキャッチボールができるか、情報共有がしやすいか、みんなで様々なオンラインツールをとにかく試してみたことが、今スムーズに連携できている鍵だったのかもしれません。特にリモートワークを始めたばかりの頃は、とにかく短い時間でもいいから頻繁に web で顔を合わせて会話をすることを心がけていました。会話量はリモートワークにしてから圧倒的に増え、コミュニケーションは活発になったと思います。」
加藤:「たしかに、会話量は多いですよね。グループチャットは、短いメッセージのやりとりで連携をとっているので、ずっと動いています。チャットはメールと異なり、気軽にコミュニケーションが取れることとグループメンバー全員への情報共有がしやすい。ただ文章が長くなってしまうと、伝わりにくくなってしまう可能性もあります。メッセージが 3〜4 行になりそうな場合は、お互いのキリが良いタイミングで テレビ会議を 5 分程度行うことで、ミスコミュニケーションを防ぐようにしています。」
若林:「 2 人だけで済む会話も、グループチャットでするようにしています。そうすることで、自然と全員に情報共有ができるような仕組みになっています。また、マネジメントをする上でも、チャットの内容を見れば仕事の状況の把握もできるようになっています。気軽にコミュニケーションがとれ、ビデオ会議にすれば表情を見ながら話をすることができることを考えると、オフィスで仕事をしている環境と同じ感覚だと思います。」
加藤:「そうですね。よく、ビデオ会議のあとで雑談もしています。オンライン上のコミュニケーションだけだと、業務連絡だけになってしまうイメージもあるかもしれないですが、何気ない会話がなくなることはなかったです。オンラインになったからと言って肩肘張るのではなく、オフィスにいた時と同じようなコミュニケーションの環境をどうつくるのかが、鍵になっているのではないでしょうか。」
—社内でのメッセージのやりとりには、Google Chat を活用—
オンラインだからできることに目を向けて、提供価値を高めていく。
加藤:「社内コミュニケーションだけではなく、お客様とのコミュニケーションもオンラインでのやりとりをメインにプロジェクトを進めています。リモートでお客様と仕事を進めることで感じるメリットは、打ち合わせをするための移動時間もプロジェクト稼働時間として活用できること。お客様により満足してもらえるシステム開発の時間として使えるのは、エンジニアにとっても理想的な働き方だと感じています。」
若林:「移動時間の削減につながるだけではなく、会議の質が高くなったと思います。対面の会議だと紙の資料だとどこを説明しているのか分からなくなってしまったり、プロジェクターに繋いでも文字が見えづらくなってしまったりと、同じ資料を共有することに課題を感じることもあったと思います。それが、オンラインだと画面共有が可能なので、説明がしやすく複数人で打ち合わせをしても全員が同じ情報として伝わります。それこそが、オンラインのメリットだと考えています。」
加藤:「同じ情報を共有する点でいうと、プロジェクトの進捗管理も Backlog というオンラインツールで可視化しお客様と共有しているので、同じ情報の認識でやりとりができます。対面だと相手の表情や温度感の感じとりやすさはあるかもしれませんが、オンライン上でこまめに連絡を取り合うことで距離感を縮めることもできます。お客様とオンラインコミュニケーションをとる際に意識していることは、相手が気軽に連絡がとりやすいツールに合わせること。連絡を取るハードルを下げて、コミュニケーションを密に取ることでお客様との信頼関係をより強く構築することにつながると考えています。」
若林:「情報共有がきちんとできていれば、対面でなくても違和感なく仕事ができることは実感しています。現に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、大阪のお客様とお互いに在宅勤務でプロジェクトを進めていますが、何の違和感もなく順調にできていますね。」
約 10 年間リモートワークを実施してきた株式会社寿商会の事例から見える、リモートワーク成功の秘訣は、下記の 3点が大きなポイントでした。
社員が提案してくるツールを実際に試して良かったら使うという柔軟な経営トップの考え
ツールを社員が選び、オフィスにいるのと同じようにコミュニケーションがとれる環境整備
プロジェクトに関わる人全員が同じ情報を、同じ認識で共有できる環境整備
石川県金沢市に本社を置く 1947年設立の老舗事務機卸業からスタートした寿商会は、既存のルールにとらわれずに臨機応変に対応し、リモートワークを実現することで優秀な人材の採用に成功しています。
そこには、「ルールを守ることを目的にせず、できることから、できる人からやる。何でも取り組んでみる。現場の声を潰さない。それがやがて、他の社員も追随していく… 」例えれば、運動場のトラックを楽しそうに走り続ける社員が増えて、座って傍観していた社員がそれを見て、周回遅れでも走り始める。やがてその一人ひとりが一つの集団になってパワーを加速していく…そんな雰囲気をこのインタビューで感じることができました。
コミュニケーションと情報共有。大切なことは対面でもリモートでもさほど変わらないのかもしれません。
リモートであることをプラスに捉える考え方の切り替えと、それを実現させるために、組織に合ったツールを見つけて環境を整えることが、リモートワークを成功に導く鍵となるのではないでしょうか。