IT 化により業務改善と大幅なコストカットを実現させた株式会社大彦。以前の状況と、 IT 導入の経緯、業務改善の内容、これからの展望について語っていただきました。
【お話をうかがった皆さん】
株式会社大彦
山上 智之さん(代表取締役社長)
花木 和代さん(本社事務員)
株式会社寿商会
若林 孝さん(代表取締役社長)
鍛治 雅彦さん(システムエンジニア)
仕入先や各店舗への連絡が、業務を圧迫。
株式会社大彦 は、1786 年に創業し、乾物や魚卵、珍味等の販売を手掛ける食品卸販売の老舗企業です。高島屋・三越・名鉄百貨店など東海地方を中心に 6 店舗に展開し、品質の高い旬のものを提供しています。その商品は幅広い年代の方から愛されています。
販売する乾物や珍味などの海産物は、さまざまな地域から数多くの種類のものを仕入れているため、同じ商品でも日によって産地を変更することもあります。商品の受発注は商品や産地ごとに細かく行われており、仕入先や各店舗への連絡手段は、以前は FAX と電話でした。そのほとんどは、本部事務所の事務員である花木さんの手作業で行われていたそうです。
「これまで各店舗から仕入先への発注書や、本部への売上報告、在庫管理にいたるまで、FAX と電話で連携をとっていました。メーカーさんから送られてきた商品情報を紙で受け取り、古い専用のシステムに手動で入力、管理していました。事務所から店舗やメーカーさんへの受発注も FAX でしたので、作業にかかる時間は大変なものでした。」(花木さん)
午前中は、ほぼ受発注や、在庫管理の業務で埋まっていました。また、すべて手入力のためその日の売上や、在庫量のリアルタイムでの把握が難しかったといいます。さらに、アナログゆえの問題点もありました。
「事務所からから仕入先に送った FAX が届いているか確認がとれていなかった場合もあり、期日内に商品が入荷されなかったこともありました。」(花木さん)
そんな中、2016 年に山上さんが代表取締役社長に就任し、業務改善に乗り出します。
「社長として就任して現場を確認した際に、FAX 、電話での受発注と確認作業を、花木がほぼ 1 人で担当しており、負荷がかかりすぎていると感じたんです。さらに使用する紙の量も膨大で、IT 導入は必須と考えました。」(山上さん)
そこで、山上さんが経営している別の水産加工会社で取引があり、多くの中小企業の DX(デジタルトランスフォーメーション)を成功に導いてきた 株式会社 寿商会の若林社長に相談し、中小企業でも実績の多い FileMaker を導入することを決定しました。当時山上さんから相談された時のことを、若林さんはこう振り返ります。
「各店舗で iPad を活用して DX を実現できれば、その日の売上はその場で送信できますし、棚卸しや在庫管理も時間を削減できます。花木さんがこれまで担当していた業務も iPad と FileMaker で大きく業務改善できるのではないかと感じました。また、これまで長い期間使用されてきた専用の販売管理の基幹システムも、別のパッケージ製品と入れ替えることで、 FileMaker との連携強化も実現し、メンテナンス料金も大きく下げることができる。少し手を加えるだけで大きな成果が出るのではないか確信しました。」(若林さん)
PCA クラウドと FileMaker Cloud の連携で、大半の業務が自動化し、レガシーシステムの保守コストもカット。
寿商会のエンジニア:鍛治さんが現場に立ち、2 か月という高速開発で FileMaker プラットフォームの導入を進めました。基盤となっているレガシーシステムには早々に見切りを付け、販売管理・仕入・在庫管理には PCA 商魂 DX / 商管 DX クラウド版を採用しました。
FileMaker で全てのアプリをカスタマイズ構築すると、将来会計ルールの変更などがあった時にコストが発生するため、IT 担当者のいない会社には向いていません。そこで、経理関連のシステムは PCA のクラウドサービスを採用しました。PCA クラウドでは 販売管理・仕入・在庫管理の機能を、わずか数万円で利用開始できます。必要なデータを FileMaker 側で準備する iPad アプリと連動させれば、FAX 送受信は一気にシステム化が可能になります。
百貨店の店舗には iPad を導入し、iPad 上から本部の管理する FileMaker Cloud へ発注します。商品がメーカーから納品されると、仕入れ伝票が送られてきますので、発注の突き合わせも FileMaker 側で実施されます。これらの一連のデータは FileMaker Cloud に溜まっていますので、FileMaker Cloud から Web API を使って、連携している PCA クラウドにデータを送付します。
月次の棚卸しも FileMaker Cloud に保存された 月末在庫を呼び出し、iPad から在庫確認し入力。その後、本部の操作で FileMaker Cloud から、PCA 商管 DX クラウドへデータが送付されます。
FileMaker を中心に業務で iPad を活用することで、受発注もオンラインでの送信が実現しました。これまで各店舗の在庫や売上などの集計を手作業で行っていたものから、リアルタイムで集計することができるように。これにより、各店舗や本部の事務作業は大幅に削減されただけでなく、売上・仕入・在庫情報がリアルタイムに反映されるため、次に打つ手を立てやすく、経営判断を迅速にすることが可能になりました。
基幹システムを刷新し、 FileMaker と連携するようにしたため、システム維持費用はこれまでの約 1/4 と大幅に削減することに成功しました。また作業効率がアップしたことで、店舗あたり一日 0.5 時間、本部では一日 3 時間の時間短縮となり、費用換算すると年間 280 万円ものコスト削減となりました。
機能を必要最低限に絞り、文字も大きくしたシンプルな UI
「メーカーさんのご都合もあるので、FAX が完全にゼロになったわけではないのですが、各店舗での商品管理や、在庫管理などは、現場で iPad にて入力してもらっているので、確認作業のみだけでいいというのはとても楽になりましたね。どの商品が、どのタイミングで入荷されるというのがひと目で分かるのも良いと、現場の反応も良好です。これまでの煩雑な手作業は半分ほど削減されました。」(花木さん)
その分生まれた時間は、これまで手が回っていなかった業務に向けられるようになったと花木さんは語ります。
「お中元、お歳暮などのギフト商品に関しては、これまで忙しくて表面上の売上数字しか見られていなかったんです。細かな内訳を確認する余裕がなかったので、細かい数字の誤差がそのままになっていました。今では細かな確認や分析に時間を取れるようになったので、ロスをなくし、業務効率化や消費者の動向分析に取り組めるようになりましたね。」
FileMaker が生み出す DX 実現にはマニュアル無し
開発者である鍛冶さんが徹底してこだわった UI(ユーザインターフェース)。百貨店の店頭に立つユーザー視点で考え、よりシンプルにした画面は、導入時の負担も少なかったようです。
「開発したシステムを納品した後は、使い方や活用方法について、問い合わせされるお客様もいるのですが、大彦さんの場合、ほぼありませんでした。UI に関して、高齢の方でも見やすいように文字のサイズを大きくし、本当に必要な機能だけを見極めて搭載するなどの工夫がうまくいった良い例になったのではないかと思います。また、しっかり山上社長や花木さんが取りまとめていただき、使用法などもスムーズに周知していただけたのが大きいですね。」(鍛治さん)
山上さんも、スタッフへの導入は思った以上にスムーズに進んだと語ります。
「販売スタッフの中には、これまで IT とは無縁の 60 歳以上のスタッフも在籍しているのですが、できるだけ少ない操作で利用できるようにしていただき、実際に活用するスタッフの声を反映しながら開発して納品していただきました。そのため、当初活用できるか不安もあったようですが、今はスタッフ全員が iPad を使いこなしていますね。」
IT の力を活用して、常により良い業務改善を目指す。
「新しい店舗展開を視野に入れていますが、その際に、これまで実現できたようなペーパーレス化や、自動化した業務フローを同じように取り入れて、スタッフがより効率よく業務に携われる職場環境にしたいと考えています。事業を拡大していく際に、業務量が増えるから人材を募集しようと安易に考えるのではなく、システムによって代用できないか、もっと良い方法はないだろうかと、考え方も常にアップデートしてきたいです。そうすることで、私たちが提供する旬の海産物や、新鮮で高品質な商品をより多くの方に身近な料金で味わってもらえることに繋がると信じています」と山上さんは力強く語ってくれた。
株式会社大彦 山上社長と株式会社寿商会 若林社長
(編集後記)
これまで FAX 、電話で主に各店舗や仕入先との連携をとっていた株式会社大彦。レガシーシステムを導入したまま長年にわたり身動きが取れなかったが、新社長の就任後に導入した IT システムで状況が一変。iPad を活用してコストも削減できている。実は、日本中に同じような対応を続けている中小企業が多数存在しているのであろう。
今回の開発を担当した 株式会社寿商会は、元々金沢に本拠地を置く老舗の事務機卸売企業だったという。経営者である若林氏の活躍で IT 企業としての実績を積み上げ、現在は、日本航空や Osaka Metro など大手 IT 企業にも引けを取らない顧客企業が取引先に名を連ねる。一方で、今は過去の自社が歩んできた同じような老舗企業のレガシーシステムの DX 実現へ邁進している。
今回、寿商会が受け取った開発費用は、過去に株式会社大彦が導入していたレガシーシステムの費用 約 3,000万円の 1/6 の費用に満たないという。社長の若林氏が、企業の成長に見合った必要な IT 投資で業務を効率化するためには、 FileMaker プラットフォームを活用し企業の成長に合わせて小さく始めて大きく育てていくことが重要だ、と語ってくれたのが印象的だった。
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